7/29/2009

ロセッティ

 1869年10月10日、ロセッティは、7年前に自殺した妻リジーとともに埋葬した自作の詩の手稿を取り戻すため、彼女の墓をあばいた。新しいミューズにして恋人、そしてウィリアム・モリスの妻であるジェーンに捧げる詩集を編むためである。
 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティには、様々なエピソードがある。20歳で、後にヴィクトリア絵画の主流を形づくるラファエル前派兄弟団を結成。リジーとの長い婚約期間、そして彼女の死期を意識してからの結婚、彼女の自殺。かつての同士、ハントの妻との不貞。ジェーンとの蜜月。自殺未遂。そして神経衰弱、薬物中毒。死。恋することに殉じた破滅型の画家・詩人である。
 色々と気になる人物だが、今回は墓を掘り返した事件から考えたい。
 この心理、一体どう説明したものか。元はと言えば、リジーのために書きためた詩であろう。だから、彼女の死とともに埋葬されたのだ。一説によると、この手稿、彼女の遺体の髪の傍らに置かれていたという。一体どういった気持ちで再び手にしたものか。芸術家の心には悪魔が棲む。きれいはきたない、きたないはきれい、か。
 妻を寝取られたモリスは、この二人の関係の隠蔽に躍起となるが、ロセッティは、彼の作品・人格を攻撃する批評が発表されたのを機に神経を病み、やがてジェーンとの恋愛も終わる。
 一見、常軌を逸しているとはいえ、ジェーンをいわゆる「最後の女」とみなせば、墓掘りのエピソードは、純愛ストーリーとして収束されそうだ。しかし仮に、ジェーンにリジーと同じことが起きたとしたら、果たして彼はどうしたか。同じことを繰り返さなかったか。もしそうならば、彼の詩はもはや、リジーやジェーンといった生身の女性に捧げられたものとは言えまい。彼女たちの先にいる女性に捧げられたものになるのだ。
 ロセッティの描く女性像は、皆、不思議と印象が似ている。豊かな髪、官能的な唇、太い首。性的魅力に富んでいるが男性的な印象。ロセッティは、彼の「永遠の女性」にとりつかれていたのだ。
 「永遠の女性」にとりつかれた男に選ばれ愛された女性は、幸福だろうか。作品で永遠の生を与えられたとしても。
 晩年性格が変わったが、若い頃のロセッティは、情熱的でカリスマ的だったという。きっと女性に甘えるのもうまかったのであろう。ひとりよがり、高慢、夢見がち。そんな彼を、やっぱり彼女たちは愛したのであろう。何となく、彼の描く女性像は、原始的な強い母性をそなえているようにも見える。
 僕もときどき、犬神様やキツネにとりつかれるが、そんなんじゃ、やっぱり駄目なんだろうね。


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